私がハナちゃんに勝った瞬間

犬は人間や他の犬と相対すると、瞬時に彼我のいずれが優位かを判断し、我がまさっていると思えば増長し、彼の方が強いと思えば服従すると言います。

数年前の話です。近所の商店街でよく見かける犬がいました。柴犬で名前はハナちゃんだったと思います。というのも、みんなハナちゃんと呼んでいましたので。

ハナちゃんは柴犬ですから大きくはなく、おとなしい性格でした。商店で飼っていたのかお客さんが飼っていたのか知りませんが、よく店の前の鉄柵に繋がれていました。

ある日、私がその前を通りかかると、ハナちゃんが吠えるのです。「オレは犬に吠えられるほど不審者オーラを出しているのか……」と愕然としつつ、さらに半歩近寄ると、ハナちゃんは今度はころんと横になりお腹を見せたのです。

私がハナちゃんに勝った瞬間です。

恐らく、変なおっさん(私)がそばを通るのに脅威を感じて吠えたけど、いよいよ敵(私)が近寄ってきてもうだめだと思い、服従のポーズをとったのでしょう。

犬の場合、かくの如く上下関係はシンプルです。人間の場合はもうちょっとややこしく、強い者が弱いフリをしたり、弱い者が虚勢を張ったりします。さすがは万物の霊長、と言いたいところですが、自分を弱く見せることで利益を得ようとする輩が多いのには辟易します。「弱者権力」などという言葉を聞くにつけ、ハナちゃんみたいな分かりやすい生き方の方がむしろ望ましく思えてきます。

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