かつて Microsoft 叩きが国民的娯楽のようになっていた時期がありました。当時の批判者たち曰く、「M$は悪の帝国」、「M$のせいでITは10年停滞した」などなど。
今、PCの普及が一巡どころか二巡、三巡し、次はタブレットPCだ、いやスマートフォンだと言われるようになってようやく Microsoft への風当たりも弱まってきました。
かわりに勢力を伸ばしつつあるのは、iPhone や iPad を大ヒットさせた Apple、検索事業で一大成功を遂げ、広告やクラウドサービスなどで寡占状態を築きつつある Google などです。
特に Google の勢いがめざましいのは皆様ご存じの通りですが、私はこの状態に一抹の不安を感じています。
Google の人気の秘密
いろいろな人と話していて感じるのは、Google の好感度の高さです。その最大の理由とされるのが、検索精度の高さ、検索結果の公正さです。
技術の高さもさることながら、検索結果を特定の国家、企業、団体の有利なように操作することがないのは大変立派です。かの、「邪悪にならない(Don’t be evil)」という社訓の賜です。
しかし、素晴らしいサービスを供給しているという点では、Microsoft だって同じです。Windows7 は、控えめに言って「よく出来て」います。では、なぜ Microsoft は Google と同じように賞賛されないのでしょうか?
答えは決まっていますね。Windows は有料であり、Google のサービスのほぼすべては無料だからです。高い金を払っているのだから Windows や Office はそこそこ使えて当たり前、一方、無料の Google 検索がこんなに便利とは、「ああ、ありがたや、ありがたや」というわけです。
もっとも、Googleは広告から莫大な利益を得ており、広告主は商品の価格に広告代を転嫁しているので、結局は我々が少しずつ払っているようなものなのですけどね。
もう一つの理由は、Google が紛れもなく「強者」であるということです。
人は強者に憧れ、強者に従います。毎日 Google 検索を利用しているというだけで、自分もその強者の一員であるかのように感じている人さえいます。
Google はプロメテウス
ただ、一つ釈然としないのは、Google は現に存在している情報に到達するための巧妙な仕組みを提供しているだけで、情報そのものを生み出しているわけではない、ということです。
Google が映画を撮ったでしょうか? Google が絵を描いたでしょうか? Google が小説を書いたでしょうか?
いいえ、Google はプログラム以外に何も生み出してはいません。
無論、そのプログラム自体、先に述べた通り賞賛に値するものですが、そのプログラムによって到達した情報にもし価値があるとすれば、それに対する賞賛は、Google ではなく、その情報を生み出した者に対して与えられるべきです。その点を誤解している人が多いのです。
ギリシャ神話に登場するプロメテウスは天の竈から火を盗んで人間に与えました。
「盗んで」と言うと穏やかではありませんが、Google のやっていることはそれに近いように思えます。今まで人目に触れることの無かった数多の情報を白日の下にさらすことによって、我々に計り知れない便益を与えました。が、それと同時に情報の提供者に対して一定の態度をとるように迫りました。
分かりやすいのが、新聞社のニュースです。新聞社は莫大な費用を投じて記者を雇い、取材させ、あるいは記事を買い取っています。一方、私たちはちょっとぐぐればいろいろなニュースに行き当たります。本当に便利です。しかし、これは新聞社の望んだ形ではないはずです。
もっとも、彼らに選択肢はありません。Google 検索に表示されない情報は「この世に存在しないのと同じ」だからです。存在し続けるためには、少なくとも、Google に自社の配信する記事が拾われることを認めなければなりません。それどころか、なんとか上位に表示してもらおうとして汲々とすることになります。
ゼウスはいない
どうあれ、火を与えてくれたのだから、人間はプロメテウスに感謝すべきという考え方も一理あります。世の Google 批判者に対する批判も、この一点に掛かっています。「お前は、Google から受けた恩を忘れたのか」と。
しかし、Google がプロメテウスと異なるのは、それを罰する者がいないということです。これこそが、私が Google の寡占を憂慮する所以です。
杞憂だとお思いでしょうか。
確かに、現在の Google はそう邪悪なことはしないでしょう。例えば、このサイトにも Google AdSense の広告が貼ってあります。彼らを批判するこの記事を理由に私の Google アカウントが剥奪されるようなことは絶対にないと確信するからこそ、こうやって書いているわけです。検索順位を下げられることもないはずです。
しかし、将来となると全く分かりません。
Google の「公平さ」は、絶対王政の道徳的水準が専ら君主の高潔さに依存するのと同じように、経営者の高潔さ以外にそれを担保するものがないのです。
その昔アクトン卿が述べたように、絶対的権力は必ずや腐敗します。残念なことに。
腐敗の兆候
Google の名誉のために言っておくならば、過去及び現在におけるこの企業のモラルは、 IT 産業は言うに及ばず、あらゆる業種を含めたとしても、かなり高い部類に入ります。
それでも、腐敗の兆候は見られます。
エリック・シュミットCEO が、「ストリートビューに写るのがいやならば、引っ越せばいい」と言い放ったのは記憶に新しいところです。この発言を傲慢と言わずに何と言うのでしょうか。
もう一つ気になるのが、我が国の北方領土をロシア領であるかのように表示していた事実です(もっとも、この点はさすがに猛抗議を受けたのでしょう、現在確認できる限り、Google Earth 日本語版では、国境線は引かれていません)。
日本海の呼称問題についてもそうですが、このようなデリケートな問題に関して、Googleに判断を求めるのは酷とも言える反面、もし仮に一定の判断が示されると、それが固定化してしまう恐れがあります。
もし、「面倒なので、声が大きい方の意見を取り入れておくか」などと安易に決められてはたまったものではありません。
真実は壊れやすい
本来、いち営利企業に過ぎない Google が、このような途方もない影響力を持つことは実は大変危険なことなのです。
想像してみてください。五年後、十年後、Google が、他の検索エンジンをすべて淘汰し尽くした世界を。どこかの団体が「(こっそり)百億ウォン払うから、日本海を東海と表記してくれ」と言ったとき、それを断る理由は、モラル以外になにもありません。
繰り返しますが、Googleが金に転んで検索順位等を操作する恐れは、今のところ皆無です。しかし、将来にわたってそうあり続ける保証は何もありませんし、殊に独占状態にあっては企業のモラルが著しく低下するのは歴史が示す通りです。
あるいは、金銭ではなく、誤った信念に基づいて、真実がゆがめられることもあり得るでしょう。上記の例で言えば、ある Google の幹部がたまたま韓国人で、本人は正しいと信じて「東海」表記で統一してしまうかも知れません。
そのときになって「あれ? おかしいぞ」と思っても手遅れです。誰かが、新しい、真に公平な検索エンジンを作ったとしても、暗黒面に墜ちた Google は(笑)、その競争相手を検索結果に表示しないでしょう。「Google に表示されなければ、この世に存在しないのと同じ」なのです。
疑いの目を持とう
ただ、「じゃあ、どうすればいいの?」と問われると、答えに窮してしまいます。
Yahoo! はもう半ば Google の軍門に下っていますし、Microsoft の Bing はまだ精度で劣ります。何より困るのは、Yahoo! も Bing も、Google より余程信用ならないということです。かく言う私も、これからも Google を使い続けるでしょう。
Googleは確かに有能です。確かに良くやっています。もし、あなたが Google に対して「忠誠心」のようなものを感じていたとしても不思議はありません。
しかしながら、今後も永遠にそうである保証は何もないのです。専制君主制よりも合議制の方が優れており、合議制の中でも一党独裁よりは多党制の方が優れているのは、理の当然です。
我々はまず、過度の Google 依存を自覚し、彼らに疑いの目を向けることから始めなくてはなりません。
大袈裟だなあ
心配性って言われない?
(;^ω^)さん:
これでも控えめに書いたつもりですけどね。
これ見たら信用する方が不思議
http://hattori.cocolog-nifty.com/brog/2005/06/google_adsense_d43e.html
peiさん:
それ本当なんですかね~
本当だとしたら、酷いですね。
そこに書いてるURIも飛んで見てきましたけど、まあほんとの事なんだろうなとは思います。
たった一度の対応でその企業の第一印象が決まってしまうことは分かりますが、どこにでもダメ社員なんて居るんですよね。
なので、これまでにお客さまとの応対で過去にたったの一度も悪印象を与えてしまったことの無い企業なんてあるわけもなく。
結局、そういう他人のウェブ記事を完璧に信用してしまう人の方もかなりマズイ気しますが、書く方も事実だけを正確に書くべきですよね。
(;^ω^)さん:
そうですね。それに、シュミットCEOの「引っ越せばいい」もそうですが、言葉の弾みというのもありますしね。
私が危惧しているのは、Googleの「体質」ではなく、一人勝ちという「状況」です。
他の選択肢もあったほうが良いと思いませんか?
そうですね!それはそう思うし賛成です。
でも実際Googleの独占がしばらく続くのは間違いなさそうですね。ほんとすごい会社だなとは思います。
いろいろ失礼な発言などあったと思うんですが御容赦願います。
これからずっと読ませてもらいますので。それでは!