少額訴訟とFacebookの落とし穴

まだ判決は出ていませんが、被告への送達が無事完了したので中間報告です。少額訴訟をお考えの方、あるいは訴えられたという方は、よかったら参考にして下さい。

訴えた経緯は以前書いた通りです。

ザラ紙に鉛筆書き

まずは訴状の提出です。少額訴訟の訴状の用紙は本来は3枚の複写になっており、一枚は正本、もう一枚は被告に送る副本、最後の一枚は原告の控え、として使われるようですが、私が行った小倉簡易裁判所では、ザラ紙を一枚渡されて、とりあえず鉛筆で書いてきて下さい、と言われました。
少額訴訟は素人向けということで、わかりやすいパンフレットや訴状の「記入例」なども同時に渡されます。
翌日鉛筆書きしたものを持って行くと、「はい、これでOK」ということで、コピー機で3枚コピーしてから提出しました。

恐らく、本来の3枚複写の用紙だと、「書き損じるといけないからもう一枚ください」だの「いや、ダメです」だのとお互いに面倒なので、鉛筆書き→チェック→コピーという運用がなされているのでしょう。

同時に証拠書類(これも3枚ずつコピーしておく必要がある)の提出も行います。窓口の人が「甲第一号証」みたいなハンコをポンポンポンと押してくれます。

手数料は訴額10万円ごとに千円です。さらに、郵券すなわち切手を6千円ほど納めます。これは送達等につかわれるのですが、余った分は裁判が終わった後で返して貰えるそうです。

手続きは迅速だが……

訴状を出したのが6月11日、わずか3日後の6月14日には「呼出状」が届きました。
訴状が提出されると、まず窓口で手数料や切手が足りているか、必要事項は全て記入されているかといった形式的なチェックがなされ、つぎに書記官、最後に裁判官がチェックをして、晴れて受理ということになり、原告および被告に呼出状等を送達するらしいのですが、わずか3日で呼出状が届いたところから見ると、この裁判官によるチェックは少額訴訟ではやらないのかも知れません。世間で「裁判は時間がかかりすぎる」と言われていることを裁判所も気にしているようで、少額訴訟では特に迅速さを重視しているようです。

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で、上の写真がその呼出状です。当然のようにザラ紙です(笑)

ザラ紙ではありますが、「呼出状」だとか「出頭してください」だとか、使われている用語がいちいち怖いのが特徴です。原告の私でさえ、ちょっとドキッとしたほどですから、被告の方はどれだけビビったろうかと想像すると愉快ですが、後述するように被告は愚かにも訴状を受け取らなかったのです。

送達が完了していない?

さて、裁判が7月19日に決まり、内心楽しみにしていました。ところが、数日前になって裁判所から手紙が来て、「被告が『不在』で訴状副本等の送達が完了していない」というのです。
こういう場合、「付郵便送達」を上申する必要があります。また、数日間で手続きを完了するのは不可能なので「期日変更」の申請もしなければなりません。このあたりのことについては「赤の他人の住民票を取った話」でも書きました。

問題は付郵便送達を上申するに当たって添付する必要がある(被告の所在の)調査報告書と、被告の住民票です。首尾良く住民票は取れたのですが、被告の所在調査は現地に出向いて行わなければなりません。私は福岡県在住、被告は横浜ですから、新幹線だと往復で4万円以上かかります。

私としてはこの際お金は問題ではないので横浜まで出向くことに吝かではなかったのですが、念のためまず担当の書記官に聞いてみると、「現地に出向くのが建前ではあるが、あなたの場合、訴額も少ないし、相手は遠方でもあるので、わざわざ行ってもらうのは気の毒……」と妙に理解あるお言葉です。

Facebookは疎明資料に使える

私が「Facebookの投稿を見ると、被告が訴状記載の住所に居ることは明白なんですけどね」と言うと、「それなら、とりあえずそのスクリーンショットをFAXしてください」ということになり、FAXすると、「検討しますね」と言われて、翌日めでたく「昨日ので許可することになったので被告の住民票と併せて正式に提出して下さい」と電話がありました。脛に傷を持つ人は、Facebookで個人情報を垂れ流すのは要注意です

本来、書記官は、というか裁判所は原告の味方でもなければ被告の味方でもなく、あくまで中立です。ですから、「わざわざ行ってもらうのは気の毒」との発言には、やや意外の感を受けました。

たぶん書記官はあまり当事者を現地調査に行かせたくないのでしょう。

というのも、現地調査は普通は法律事務所の職員がやる仕事で、彼らは慣れているし、万一「不審者」扱いされても、名刺を出して事務所に問い合わせてもらえば誤解は解けるからです。
当事者、つまり一般の人が被告の家の敷地に入ってガスメーターをチェックしたり表札の写真を撮ったりしていると、それこそ不審者そのものだし、警察でも呼ばれたら釈明に苦労することは必至です。

原告本人と被告とが鉢合わせしてケンカになってしまう心配もあります。
さらに、調査の結果、被告が居住していることが判明すれば良いのですが、もし「もぬけの殻」だった場合、当然、付郵便送達は認められません。たちの悪い原告だと、「お前が行けっちゅうから行ったんやぞ! 往復4万とホテル代1万、合わせて5万、どないしてくれんねん!」と、なぜか大阪弁で書記官に詰め寄るかもしれません(笑)

それに、そもそも訴状が「不在」で戻ってくること自体、被告がそこに住んでいることを窺わせるに十分です。なぜなら、表札が別人になってたり、明らかに人が住んでいる気配がなかったりすると、「不在」ではなく「宛所に尋ね当たらず」で戻ってくるはずだからです。

そういうわけで、裁判所は意外に柔軟な対応をしてくれますので、似た状況の方はとりあえず書記官に聞いてみて下さい。

あせらず淡々とやるべし

少額訴訟では代理人を立てずに本人訴訟でやるのが普通ですし、裁判所も相手が素人であることは重々承知なので、このように、思った以上に親切です。

ただ、通常訴訟には「公示送達」という手続がありますが、少額訴訟にはそれがなく、必ず相手の居所が分かっている必要があります。

今回手間取ったのも相手が訴状を受け取らなかったからで、もしこれをお読みのあなたが今後訴えられることがあったら、「居留守」は引き延ばし戦術としては有効です。
気の短い原告なら、それだけで諦めてしまうかも知れません。
ただ、2回までは送達を無視しても大丈夫ですが、3回目、すなわち「書留郵便に付する送達(付郵便送達)」が来てしまったらもうダメです。発送の時点で送達の効力が発生し、そのまま手続が進行してしまいます。
「答弁書」を出さず、期日にも欠席すると、「擬制自白」が成立し、原告の言い分が全て認められます。

今回の訴訟もどうやらそのパターンで、既に付郵便送達が完了していますが、相手方(被告)からは何の音沙汰もありません。恐らくまた居留守でしょう。

もしこのまま被告がなにもしなければこちらはそれだけラクに勝てるわけで、それはそれでありがたいのですが、憎たらしい被告が「出頭して下さい」などと書いてある呼出状を見て青くなる姿を想像して密かに喜んでいたのに、そうならなかった(らしい)のは残念です(笑)

延期となった裁判は9月6日とまだだいぶ先です。それに、「○○円支払え」との判決が出ても被告は結局無視するであろうことは容易に想像できるわけで、その先の強制執行にはさらなる困難が予想されます。

まあ、のんびりとやっていこうかと思います。
結果が出たらまたここで報告します。

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