勘違い芸人

ずいぶん昔の話ですが、ある新人お笑いコンビの一人がテレビでこんなことを言っていました。

「師匠が二人で一万やていわはって小遣いくれたんですけど、相方が聞きつけて、『俺のぶん、五千円、はよよこせや』とうるさいんです。ほんま、こまかいやっちゃ」

一見なんの変哲もない話ですが、私はこれを聞いて他人事ながら腹が立ちました。なぜか。

相方が「ええがな、ええがな、五千円ぐらい。お前が全部もろうとき」というのなら何の問題もありません。しかし、あわよくば一万円まる取りしようとした側が「五千円ぐらいでこまかいやっちゃ」と言うのはおかしいと思うからです。

例えばの話です。タクシーの運賃が五千円であったとします。あなたが運転手に一万円札を渡して、「お釣りはとっといて」と言うなら、豪気な人だなで済みます。しかし、一円も払わずに立ち去ろうとしたら警察に突き出されても文句は言えません。同じ五千円でも前者と後者では意味が異なります。

もう少し一般化して言えば、自分の他人に対する債権をどう処分しようと勝手だが、他人の自分に対する債権はあなたの意思でどうこうできるものではない、ということです。

払うべき金を払わずにおいて豪傑ぶるなど以ての外です。

まあ、自分に甘い小人物ぶりを世間に笑ってもらおうとしたのだと思いますが、子供の時分に段ボールごと商品を盗んだと得意気に話した女優と同じで、笑えない話です。

件の芸人はその後全く見かけなくなりました。

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